一般社団法人 日本肝臓学会

合併症、予後、死亡例

合併症

本邦における1989年11月13日から2002年4月11日までの生体肝移植ドナー(n=1,841)における合併症はUmeshitaらにより(Lancet. 2003;382:687-90)12%と報告されました。これを受けドナーに対する全国調査が、2003年末までの生体肝移植(n=2,667)症例のドナーに対して2004年に行われました(回収率61.4%)。その調査報告書によると、術後体調の回復について、「完全に回復」した方が52.2%、「ほぼ回復」が44.9%でしたが、一方「ほとんど回復していない」「まったく回復していない」と回答した方の合計が0.3%でした。

さらにHashikuraらは(Transplantation. 2009;88:110-4)2006年12月末までの症例(n=3,656)について、死亡症例(n=1)と、life-threatening complications(n=2、多臓器不全発症例、下半身不随発症例)を含めて報告しました。同報告での全合併症例(n=270、7.4%)中、Clavien-Dindo分類IIIa以上の割合は53.7%でした。合併症の詳細と割合は、胆汁漏(2.64%)、創感染(1.23%)、胃内容排出障害(0.76%)、胆管狭窄(0.36%)、同種血輸血(0.28%)、小腸閉塞(0.28%)があり、再手術(n=48、1.3%)を要した合併症の詳細は、胆道再建(0.25%)、癒着剥離(0.25%)、胆汁漏(0.22%)、腹腔ドレナージ(0.22%)、止血(0.11%)、胆道ドレナージ(0.08%)、腹壁瘢痕ヘルニア修復術(0.08%)、胆管形成(0.08%)、肝移植(0.03%)、胸水ドレナージ(0.03%)がありました。その他合併症として、創痛・感覚麻痺、創部ケロイド、腓骨神経麻痺、門脈血栓症、肺静脈血栓・塞栓症、精神的問題などがあります。

合併症について、グラフトタイプ(外側区域、左葉、右葉)での差異が報告されていますが、差異はないとする報告や、単施設内における手術術式と術後管理の習熟度にともなう合併症率低下の報告(Uchiyama H, et al., Am J Transplant 2014;14:367-74)もあり、controversialです。

予後

生体肝移植ドナーの長期生命予後結果についての研究報告は少なく、Muzaale Aらによれば(Gastroenterology. 2012;142:273-80)、アメリカ合衆国での1994年から2011年までの間の生体肝移植ドナー(n=4111)を中央値7.6年の観察期間で調査し、術後90日以内(n=7)、90日以降の死亡例(n=24)が報告されています。この数を生体腎移植ドナー、アメリカ合衆国center for disease control(CDC)によって集められた健常人からなるデータ(National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES) III)と比較すると、2年死亡率は生体肝移植ドナー、生体腎移植ドナー、NHANESIIIそれぞれで0.3、0.2、0.3%、5年死亡率は0.4、0.4、0.4%、11年死亡率は1.2、1.2、1.2%といずれも有意差は認めませんでした。

死亡例について

本邦では2020年12月末までの生体肝移植施行例(n=9,760)において、2003年に1例のドナー手術による直接死亡例(0.01%)が報告されています(Akabayashi A, et al. Transplantation 2004;77:674.)。本事例は、高血圧、軽度脂肪肝のある40代女性ドナーが右葉グラフト(中肝静脈つき)提供後に術後肝不全となり、ドナー自身に対してドミノ肝移植が施行されましたが、結局ドナー手術後8か月で死亡しました。日本肝移植研究会の第三者外部委員による検証の結果、ドナー肝組織の病理検査でNASHの存在が明らかになり、またCTによるドナーの残肝容積が安全域とされる30%を下回っていたことが明らかになりました。(移植 2004;39:47-55)

世界的には1989年から2006年までの生体肝移植症例において、ドナー肝切除と明らかに関連する13例の死亡例が報告されました(Trotter J, et al., Liver Transpl. 2006;12:1485-8)。またCheah YLら(Liver Transpl. 2013;19:499-506)によるWorld-wide surveyによれば、21カ国のドナー肝切除症例(n=11,553、95.6%が右葉グラフト)中23例の死亡事例(0.2%)があり、うち17例のドナー手術に直接関わる死亡事例(0.16%)および5例のドナー自身への肝移植事例が報告されました。さらにこれまでに報告されているが、本Surveyで捉えられていない死亡例が11例(うち7例は60日以内の死亡例)あったと報告しています。

長期的なドナーの予後に関しては、日本肝移植学会症例登録報告2021年(PDF)によれば、登録症例(n=9,760)中、追跡調査にて101例の生体ドナーの死亡(1%)が判明しています。死因の上位3つは悪性腫瘍(n=34、33.7%)心血管疾患(n=16、15.9%)、自殺(n=14、13.9%)となっており、それぞれの観察期間の中央値は10、5、4年でした。