新専門医制度の概要
① 新しい専門医制度の概要
- 1 理念
- 肝臓専門医制度では、肝炎、肝硬変、肝癌等の肝疾患全般にわたる最新の専門知識と豊富な経験を持ち、最適な肝疾患診療を行う能力を有する肝臓専門医を育成・認定し、また全国的に広く配置することで肝疾患診療の質の向上と均てん化を図ります。その結果として、肝疾患の進展や発癌の抑制、予防を介して国民の健康に寄与することを理念としています。(研修ガイド 1)
- 2 サブスペシャルテイ(以下、サブ)領域専門医としての肝臓専門医
- 新しい専門医制度の基本は2段階制度です。即ち、19の基本領域の専門医と、その上に位置するサブ領域の専門医から本制度は構成されており、医師はいずれかの基本領域の専門医をまず取得することが要求されます。そのうえで、サブ領域の専門医の取得に進みます。
肝臓専門医はサブ領域の専門医の一つとして、既に日本専門医機構に認定されていますが、肝臓内科領域と消化器内視鏡領域については、技術認定や特定の疾患対策等を深めるために、消化器内科領域の補完研修領域と定められています。そのため補完研修のスタートは、消化器病専門医の専門研修の開始後3年目以降になります。原則3年間の専門研修を修了し、肝臓専門医認定試験に合格することで、日本専門医機構より肝臓専門医として認定されます。(研修ガイド 1, 2, 14) - 3 カリキュラム制の導入
- 本制度では、研修カリキュラムの内容を履修し修了することを目指すカリキュラム制を導入します。そのため年度毎のプログラムは規定せず、カリキュラムの修了を持って研修の修了とします。この点が、年度毎に研修を進めていくプログラム制と大きく異なります。研修期間は3年間と設定されていますが、研修カリュキュラムの履修状況によっては3年間を超えることは認められています。
さらに妊娠・出産・育児あるいは疾病等による研修の休止も認められており、その結果として、合計の研修期間が3年を超えることは認められます。このようにカリキュラム制の導入により、専攻医それぞれのライフスタイルや個人の事情・環境に沿った形で研修を受けることが可能です。(研修ガイド 2, 3, 18) - 4 専門研修体制
- 2年間の初期臨床研修後に、基本領域である内科専門医を取得したうえで、連動研修領域である消化器内科領域の専門研修3年目以降の医師、あるいは消化器病専門医資格が認定される見込みである医師、または取得済みの医師は、原則3年間の肝臓専門医専門研修を受けることができます。
専攻医は認定施設、関連施設、特別連携施設において、指導医、暫定指導医あるいは専門医の指導のもとに、研修カリキュラムに沿った形で専門研修を行います。(研修ガイド 2, 15) - 5 専門医取得への流れ
- 専門研修中に研修カリキュラムに規定された疾患、症状・徴候を経験して、症例情報を専攻医登録評価システム(J-OSLER-H)に登録します。また検査・処置を経験し、基本的知識を取得したうえで、肝臓専門医専門研修評価手帳(以下、研修手帳)に登録します。適宜、指導医により登録内容の達成度が確認されます。最終的にカリキュラムを修了した時点で、研修管理委員会と日本肝臓学会専門医制度審議会研修評価ボード(仮称)が修了判定を行います。研修修了後、肝臓専門医認定試験に合格することで、日本専門医機構より肝臓専門医として認定されます。
(研修ガイド 3, 16)
- 6 基本領域との連動研修・並行研修
- 肝臓内科領域は、内科領域の補完研修領域の1つと定められています。肝臓内科専門医専門研修のスタートは、連動研修領域である消化器内科領域の専門研修の開始後3年目以降になります。そのため、基本領域である内科領域の専門研修との連動研修や並行研修は行うことができません。
(研修ガイド 2, 17)
- 7 他のサブスペシャルテイ領域との並行研修
- 診療領域的に近いサブ領域の専門分野として、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医があります。どちらの専門研修もカリキュラム制を導入しています。
肝疾患に関する基本姿勢としては、消化器病専門医はウイルス肝炎や肝細胞癌をなどのCommon Diseaseに対する標準的診療を行い、肝臓専門医は肝疾患全般の高度な専門的医療を行います。このように肝臓専門医と消化器病専門医とは、お互いの診療上の特徴を発揮しながら、肝疾患診療を支えています。
新制度では、基盤領域が内科である場合、まず連動研修領域として消化器内科領域の専門研修を開始することが基本です。消化器病専門医に加えて肝臓専門医の取得を希望する専攻医には、連動研修を行うことを支援します。即ち、補完研修としての肝臓内科領域の専門研修のスタートは、消化器内科領域の専門研修の開始後3年目以降になります。その結果、消化器病専門医、肝臓専門医の順に、それぞれの専門医の受験資格を取得することができます。
一方、消化器内視鏡専門医と肝臓専門医との接点は、食道・胃静脈瘤を中心とした慢性肝炎・肝硬変に伴う消化管病変です。消化器内視鏡専門医は内視鏡的診断と止血あるいは出血予防を目指した内視鏡的治療を担い、肝臓専門医は食道・胃静脈瘤などの背景となる門脈圧亢進症への進展を抑制する抗炎症、抗線維化療法などの専門的医療を行い、適宜、内視鏡的止血あるいは出血予防措置を行います。このように肝臓専門医と消化器内視鏡専門医とは、相補的な診療を行い、肝疾患に起因する消化管病変の診療を支えています。
そこで肝臓専門医に加えて消化器内視鏡専門医の取得を希望する専攻医には、消化器内視鏡領域の専門研修を行うことを推奨、支援します。二つの専門研修の並行研修が可能かどうかについては、今後、専門医機構と協議する予定です。カリキュラムが修了した順に、それぞれの専門医の受験資格を取得できます。
ここで重要な点は、補完研修領域の専門医に関しては、サブスペシャルテイ領域の専門医資格の取得数の上限は適用されないことです。言い換えれば、消化器内科領域の3つの専門医、即ち、消化器病専門医、肝臓専門医、消化器内視鏡専門医は全て取得することが可能です。(研修ガイド 2, 17)
② 専攻医
- 1 肝臓専門医専攻医登録
- 専攻医登録には、連動研修領域として消化器内科領域の専門研修を開始していることが必要です。具体的には、補完研修領域である肝臓内科領域の専門研修のスタートは、消化器内科領域の専門研修の開始後3年目からになります。そのためそれまでに、日本肝臓学会にご入会ください。ご入会手続きが完了しますと、学会より専攻医登録用用紙を郵送いたしますので内容に沿ってご登録をお願い申し上げます。またすでに会員の方は、こちらにお問い合わせください(E-mail:j-osler-jsh@jshep.org)。
専門研修中に研修カリキュラムに規定された疾患、症状・徴候を経験して、症例情報を専攻医登録評価システム(内科学会のJ-Oslerサブスペ版である肝臓学会版J-OSLER(J-OSLER-H)に登録します。J-OSLER-Hは2024年秋の運用開始を予定しています。J-OSLER-Hの稼働開始後は、付与されたIDでJ-OSLER-H上で症例情報の登録が可能となります。
J-OSLER-Hが稼働するまでの間は、一旦J-OSLER-Gに症例情報を登録しておくと、稼働後にJ-OSLER-GからJ-OSLER-Hへ症例情報を移動することが可能です。消化器内科領域の専門研修開始2年目以降に経験しJ-OSLER-Gに登録していた症例の中で、肝臓学会指導医が十分な研修を行ったと認めた症例は、消化器内科領域の経験症例との重複を避けたうえで、肝臓内科領域の専門研修の症例の一部として申請することができます。但し、基本領域である内科領域の専門研修での経験症例は、肝臓内科領域の専門研修の症例としては認められませんので注意してください。(研修ガイド 8, 16, 20) - 2 到達目標
- 肝臓の生理・代謝・解剖、肝臓病の病態・病理、臨床腫瘍学、法規(肝炎対策基本法、医療費助成、改正臓器移植法、身体障害者福祉法)など、習得した基本的知識を研修手帳に登録します。
研修カリキュラムに示された検査や処置、具体的には血液検査、画像検査、薬物治療、栄養療法、経皮的治療、経血管的治療、内視鏡的治療、関連する消化器症状・救急病態への対応について、経験実績を研修手帳に登録します。
専門研修カリキュラムや研修手帳に挙げられた肝疾患、胆道疾患、腹膜・腹腔疾患の計42(35+6+1)疾患のうち、症例経験の到達目標が2(☆☆)または3(☆☆☆)に該当する疾患を中心として35疾患以上を経験し、症例数として70症例以上を確保してください。また、研修手帳に挙げられた15症状・徴候を、30症例以上を経験してください(外来症例は20%まで可とします)。原則3年間の研修期間中に上記の疾患、症状・徴候を経験してそれぞれJ-OSLER-H、研修手帳に登録し、指導医の承認を受けてください。なお、症例経験と症状・徴候の経験対象となる症例の重複は可能です。(研修ガイド13, 22) - 3 専門研修の実際
- 専攻医登録を行ったうえで、認定施設、関連施設あるいは特別連携施設において、指導医、暫定指導医あるいは専門医の指導のもとに、研修カリキュラムに沿った形で専門研修を受けます。
肝臓内科領域の専門研修は、連動研修領域である消化器内科領域の専門研修の開始後3年目以降になります。規定された検査・処置を経験し、基本的知識を取得し研修手帳に登録します。また、症例や症状・徴候を経験したうえで、J-OSLER-Hや研修手帳に登録します。指導医により適宜、J-OSLER-Hや研修手帳の登録内容が確認・評価されます。
一方、各種カンファレンスに積極的に参加し肝疾患診療についての最新の知見を習得し、症例検討会では診断から治療法の決定までの肝疾患診療の流れを学び、CPCでは病理像と肝疾患の臨床像との関連を理解します。このように能動的な学習態度で、肝臓専門医に必要な高い専門性を身に着けます。
さらに、診療手技セミナーなどで、超音波診断、超音波ガイド下肝生検・腫瘍生検、ラジオ波焼灼療法(RFA)、内視鏡下食道静脈瘤結紮術(EVL)などの、診療スキルの実践的なトレーニングを受けます。(研修ガイド 4, 5, 8, 11, 14, 22) - 4 専攻研修の修了判定
- 専門研修カリキュラムや研修手帳に挙げられた肝疾患、胆道疾患、腹膜・腹腔疾患の計42 (35+6+1) 疾患のうち、症例経験の到達目標が2(☆☆)または3(☆☆☆)に該当する疾患を中心として35疾患以上を経験し、症例数として70症例以上を経験し、15症状・徴候を、30症例以上を経験し(外来症例は20%まで可とします)、指導医の承認を受けた時点で、専攻医は修了判定を研修管理委員会に申請することができます。
但し、申請できるのは基本領域の内科専門医、連動研修領域の消化器病専門医を、既に取得していることが条件になります。
研修管理委員会で修了判定がなされた後、日本肝臓学会専門医制度審議会研修評価ボード(仮称)が最終修了判定を行います。(研修ガイド 9, 12, 13, 16, 18, 20, 21) - 5 専門医認定試験
- 研修修了証明書が専攻医に届いた時点で、肝臓専門医認定試験の申請が可能になります。その後、専門医認定試験に合格することで、肝臓専門医として認定されます。
(研修ガイド 14)
③ 専門医更新
肝臓専門医は5年毎に認定更新に必要な申請書類を申請期日までに専門医制度審議会へ提出し、認定更新の審査を受ける必要があります。
認定更新のための条件は以下の通りです。
- 認定日から申請年度の部会(東部会・西部会)までに、別表単位表の中から50単位を取得すること。
- 認定日から申請年度の部会までに、本学会主催の総会、大会、部会、及び国際会議のいずれかに1回以上の出席があること。
- 認定日から申請年度の部会までに、本学会主催の教育講演会を1回以上受講していること。
- 内科を基盤領域とするため、日本内科学会認定医、総合内科専門医、内科専門医であること。
なお、基盤学会の専門医は現時点のものです。今後、変更があればHPなどで周知します。 - 申請時において、当該年度までの年会費を完納していること。
- 注:更新保留、延長などについては日本肝臓学会専門医制度規則をご覧下さい。
④ 指導医
- 1 専門研修における役割
- 指導医マニュアルに基づき、日々の診療・教育的行事において専攻医を指導します。肝臓専門医に必要な診断・治療に関する技能については、専攻医に診断法・治療法の原理、原則を学ばせたうえで、段階的に習得させ、最終的には自立して実践できるようにします。
J-OSLER-Hに専攻医が登録した症例、ならびに研修手帳に登録した検査・処置経験、基礎的知識については、経時的に目標達成度を評価します。また、技術・技能についての評価も行います。
一方、専攻医の心身の健康維持を常に留意し、必要に応じて専攻研修管理委員会と協議し健康保持のための対策を講じます。また専攻医が病気・けが等で休職する場合には、職場復帰までサポートします。(研修ガイド 19, 23) - 2 指導医申請
- 新たな専門医制度における指導医(新指導医)の申請には次の要件が必要です。
- 専門医更新を1回以上(専門医歴5年以上)経験し、申請までの5年以内に日本肝臓学会が主催する生涯教育講演会を2回以上受講し、かつ指導医講習会を1回受講していること(但し、指導医講習会が開催されるまでの移行期間においては、生涯教育講演会を1回以上受講していることのみを要件とします)。
- 肝疾患診療あるいは研究活動に10年以上従事し、そのうち通算3年以上は日本肝臓学会または日本消化器病学会の認定施設または関連施設での診療に従事していること。
- 肝臓学、肝臓病学に関する研究論文を2編以上有しており、うち1編はfirst authorあるいはcorresponding authorであること。
- CPC(Clinical-Pathological Conference)、CC(clinical Conference)、当該領域に関する学術集会(医師会を含む)などへ主導的立場として参加・関与していること
(研修ガイド 19, 23) - 3 指導医更新
-
指導医は、5年毎に認定更新に必要な申請書類を申請期日までに専門医制度審議会へ提出し、認定更新の審査を受ける必要があります。
認定更新のための条件は以下の通りです。
- 申請時において、肝臓専門医であること
- 認定日から申請日までに、本学会主催の教育講演会を1回以上、指導医講習会を1回以上受講していること(但し、本学会が主催する指導医講習会が実施されるまでの移行期間では、教育講演会を1回以上受講していることを要件とする)
- 更新申請年度の部会終了後2週間以内に申請をすること
- 申請時において、当該年度までの年会費を完納していること
保留、延長などについては専門医制度規則をご覧下さい。
(研修ガイド 19, 23) - 4 暫定指導医
- 指導医数の不足、地域偏在を是正するために新たに設けられました。専門医更新を1回以上経過した専門医(専門医試験合格後6年目)が申請すると、肝臓学会専門医制度審議会での審査を経て、暫定指導医の資格が付与されます。暫定指導医は別途定める条件をクリアすることで、正式に新指導医と認定されます。
(研修ガイド 19, 23, 日本肝臓学会専門医制度細則)
⑤ 研修施設
認定施設に複数の関連施設、特別連携施設を加えた専門研修施設群を構築することにより、総合的な研修や地域における医療体験が可能となる専門研修を目指します。
- 1 認定施設
- 施設要件としては以下を原則とします。
- 肝臓病病床を10床以上有すること。
- 常勤の専門医が3名以上勤務し、そのうち1名以上が指導医(暫定指導医も含む)であること。
- 十分な教育指導体制がとられていること。
- 剖検室を有することが望ましい。
- 研修内容に関する監査・調査に対応出来る体制が備わっていること。
- 施設実地調査(サイトビジット)による評価を受ける体制が備わっていること。
- 2 関連施設
- 施設要件としては以下を原則とします。
- 専門性および地域性から専門研修で必要とされる施設であること。
- 肝臓病病床を5床以上有すること。
- 指導医(常勤、非常勤を問わない)が1名以上、専門医が1名以上勤務し、十分な教育指導体制がとられていること。
- 認定施設と協力して専門研修が可能であること。
- 剖検室を有することが望ましい。但し認定施設の剖検室を含むものとする。
- 3 特別連携施設
- 施設要件は以下を原則とします。
- 肝臓専門医、あるいは消化器病専門医が勤務していること。
- 専攻研修が可能であること。
- 認定施設の指導医による十分な指導体制が担保されていること。
(研修ガイド 7)
⑥ 肝臓専門医専門研修管理委員会
肝臓専門医専門研修管理委員会は認定施設、関連施設、特別連携施設から構成され、専攻研修が円滑に行えるように指導、管理を行います。また専門研修における課題、問題点については協議の上、改善を図ります。
加えて、専攻医からの修了判定申請を受け、J-OSLER-Hに登録された研修実績、ならびに研修手帳に登録された検査・処置経験、基礎的知識を審査し修了判定を行い、その結果を日本肝臓学会専門医制度審議会研修評価ボード(仮称)に上申します。
(研修ガイド 10)